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第12話 新たなる盟友

last update Last Updated: 2025-05-10 18:45:21

 TPOはわきまえるべき。それはもちろんだ。

 腐女子は隠れて生きる定め。場所もわきまえずに大っぴらにしてはいけない。

 けれどこれはチャンスではないか?

 もしもリリアにBL適性があれば、腐女子仲間を一人増やせるのだ!

 よし、ここは慎重に……!

「……物語を考えるわ」

 私は言葉を選びながら言った。

 もしリリアにBL適性がなかったとしても、別の方向に話を逸らせばいい。

「物語ですか?」

 意外だったらしく、リリアはきょとんとしている。

「ええ。私が気に入っているのは、英雄と神々の戦いのお話。あの有名な古典の英雄叙事詩よ」

 平民であるリリアも知っていたようで、うなずいている。

「でも、戦いのお話は男性むけじゃないですか? わたし、戦争のことはよく分かりません」

「あのお話は戦いばかりではないわ。英雄たちの友情と絆、愛憎、そういったものが重要なの」

「絆……」

 リリアがいいところに食いついた。さりげなく『愛憎』を混ぜたかいがあったぞ。

「そう、絆。憎しみも愛情も全ては人と人との絆と言える。あの物語の発端は、ある国の王妃だった絶世の美女を、他国の王子が奪い取ったことだったわね」

「はい。奪われた王が激怒して戦争になったんですよね」

「王妃は神々の力で王子を愛するようになった」

「ひどい話です。神様が夫婦の仲を引き裂くなんて」

「でも、もしかしたら王妃は王を愛していなくて、略奪者である王子を待ちわびていたのかもしれないわ」

「え……」

 リリアが目を丸くしている。

 こういった解釈の多様さが二次創作の醍醐味ってやつだ。

「絶世の美女というからには、人しれぬ苦労もあったでしょう。本当は好きな人がいたのに、王に無理やり結婚を迫られたのかも」

「ありそうです!」

「もしもを考えるなら、いろんなことがあるわね。例え

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  • 腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~   第10話 ベネディクトの内心

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  • 腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~   第9話 軍団長面談

     軍団長が微笑んだまま続けた。「フェリシア嬢、正直私はきみという人を見誤っていたよ。帝都を追放された貴族令嬢で、しかも皇家をたばかったというじゃないか。どんな悪女が来るのかと戦々恐々としていたのだが」「まあ……」 そんなふうに思われてたんだ。  まあ表面だけを見ればそのとおりなので、返す言葉もございませんってとこだが。「ベネディクトにそれとなく見張らせていたんだが、きみの実際の行いは予想と真逆でね」 見張りときた。どうりでちょくちょくベネディクトと鉢合わせたわけだ。  彼のほうを見ると、そっと目を伏せてられてしまった。「これからもどうかゼナファ軍団の力になってくれ。困り事があればいつでも相談に乗ろう」「もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」 深く頭を下げて、軍団長との面談は終わった。  軍団長の部屋を出ると、ベネディクトがついてきた。「フェリシア。私からも少しいいか?」「はい、なんでしょう」 正直さっさと戻りたかったが、副軍団長を無下に扱うわけにもいかない。「きみはかつて『聖女』の称号を得ていたと聞いた。本当だろうか?」「本当ですよ。十歳の魔力鑑定で属性が『光』と出たので」「……!」 魔力鑑定は自由市民であればほぼ全員が受ける儀式だ。 大抵は木・火・土・金・水の五属性のいずれかになるが、稀に私のようなイレギュラーが現れる。  光はその中でも特別で、邪気と瘴気を払う聖女の役割を負うと言い伝えられてきた。その希少さから皇家に嫁ぎ、帝国のために働くのだと。「言い伝えの聖女の力は真実なのか?」 ベネディクトの口調は真剣だった。  この北の要塞町は魔物との戦いに明け暮れる前線の場所。  もしも聖女が本当に瘴気を払えるのであれば、魔物との戦いを有利に進められる。彼らにとって切実に欲しい力だろう。 けれど

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